新たな旅をはじめます——新年のごあいさつに代えて

新年明けましておめでとうございます。

昨年のわたしは、どこに向かうのか何も分からないまま歩き続けた1年だったように思います。
コロナウイルスの感染におびえ、またコロナがもたらす社会の変化にどのように対応していけばいいのか、答えの出せない問いにずっと向き合ってきた感じがしています。
そして最近になって、少しずつですが分かってきたことがあります。
何でもコロナウイルスのせいにしてきた自分の存在です。
うまくいかないのは自分のせいではなく、コロナ禍によって世の中が変わってしまったからだという、どこかあきらめのような冷めた見方が、自分の始めた挑戦への意欲を蝕んでいるではないかと感じ始めたのです。
新たな事務所のスタート直後に訪れたコロナ禍、そして出発点の開点とその後の感染拡大—―。はじめは未曽有の出来事にやむを得ず繰り出していた免罪符が、いつしか常套手段になってしまっていました。

おかげさまで初夏からほぼ休みなく続いた作家さま方の展示が終わり、12月の初めに2年ぶりの気ままな一人旅をしてきました。
旅に出る朝、これまでと違うことが起きました。たったの数日間だというのに、家を離れることにとても不安を覚えたのです。初めての感情でした。
でも、新幹線に乗りながら、窓の外がだんだん見慣れない風景に変わっていくにつれて、少しずつ以前のような旅への憧れが高まっていきました。
同時に、何も変わっていないと思っていた自分の心は閉じて内向きになってしまっていたのかもしれない――驚きとともに悲しい気持ちがこみ上げてくるのを感じました。過ぎ去る風景を眺めながら自分の日々の暮らしすべてがそのような方向に動いていることを認めざるを得ませんでした。

旅から戻り、ずっといろいろなことを考えています。
いつも旅する自分でありたい—―自身のこの気持ちが母体のひとり出版社「旅と思索社」と、この「出発点」の屋台骨を支えてきました。
今年こそはコロナと共存する世界に前向きに向き合いながら、その基礎となる部分を補強し、時代にふさわしい新たな旅の計画をたくさん練っていきたいと思います。
コロナの世の中でも、希望を持って新たな知見で向き合えば乗り越えられる日がきっと訪れると信じて。

本年も旅と思索社ならびに出発点をどうぞよろしくお願い申し上げます。

合同会社 旅と思索社 代表社員 
Bookstore & Gallery 出発点 点主 
廣岡 一昭