場所との出会い1


今年7月の、暑いある金曜日の夕暮れ。
仕事も落ち着き、そろそろ飲みの誘いでも……と思いながら、わたしは長年お手伝いしている湯島の古美術月刊誌『小さな蕾』の版元・創樹社美術出版の事務所で気だるそうにネットサーフィンをしていました。

見ていたのは、テナント貸し物件の検索サイトでした。
ずっと、人が集まれる場所がほしいなあ……と思っていたわたし。
実際、 昨年暮れには 問い合わせをきっかけに親切にしてくれた神保町の不動産業者の方に相談し、いっしょに手ごろな物件を訪ね歩いてみたこともありました。

希望は、「事務所を兼ねたミニイベントのできる店舗可物件」。
無知なわたしは、事務所を店舗として使うのはハードルが高いということをそのとき初めて知りました。
店舗物件と事務所物件では条件がまったく異なるのです。オーナーも簡単には貸したがらない。
当然、手ごろな物件はそうそう見つかりません。 気に入ったものがあっても、とても保証金や家賃など支払える額ではありません。しかも内装はすべて自腹です。

やっぱり夢のまた夢。わたしはすっかりあきらめたつもりでいました。
―― でも、やっぱりあきらめきれなかったのです!
すぐには実現が難しくてもいつかは……そう思いながらときどき、ふと、自分を勇気づけようと思って物件を探していたのでした。

いつものようにテナント貸し検索サイトの画面をスクロールしていると、一瞬、「清水ビル」という名前が目に入りました。
はじめは気にしていませんでしたが、少し経つとなんだか気になってきます。
再びページを戻って住所を見てみると、文京区湯島。もしやと思い、詳細を見てみると、なんと創樹社美術出版が入居している1階部屋の真上ではありませんか!
外に飛び出し2階を見上げました。いつの間に空室になったのだろう……。
そこには、明かりのつかない薄暗い窓が、ぽつんと顔をのぞかせていたのです。

家賃は共益費と消費税を含んで64,000円弱!
広さは1階とほぼ同じような感じです。
広くはないけれども、わたしにとっては身の丈のちょうどいい大きさに感じられました。
突然、わたしの中にむくむくとした気持ちが込み上げてきました。
なにかが始まりそうな、そんな気がしたのです。

ほんとうに不思議な出会いでした。

(つづく)